2011年08月13日

「長い目で見るのが大事」山下 翔大 

一般の人に「地質学の研究をしてます」っていうと,かなりの確率で「ああ,ピラミッドとか?」って聞かれる.違う.
アメリカでは地質学者(ジオロジスト)といえばモテ職の代名詞らしいが,日本では考古学者の方がモテるようだ.

地質学(ジオロジー)にも”ピラミッド”にも共通して言えるのは,「過去の情報から何かを読み取る」という点にあるだろう.
特に地質学は過去から現在に至るまでの自然現象を対象として,カッコイイことを言えば,そこから未来を予測していく,そういう学問だと私は思っている.


私は,2011年3月の東北沖地震津波によって陸域に堆積した『津波堆積物』の特徴を調べるために,岩手県陸前高田市の調査に参加した.

津波の際には海から陸へと大量の土砂が運搬される.そのため,昔の地層を調べれば過去にどの程度の規模の津波がどれくらいの頻度で襲来していたのかがわかる.
しかし,いくら巨大な津波が陸を襲っても,溜まる土砂はせいぜい厚さ数十センチ程度である.そして,津波堆積物を高潮や洪水の堆積物と区別して正確に認定するのは非常に困難である.
そこで,今回の津波堆積物をよく調べることで,「津波堆積物にしかない特徴」というものを明らかにしてやり,過去の津波の情報を正確に読み取る手掛かりにしてやろうじゃないか,そういう取り組みである.


この研究概要からもわかるように,地質学は非常に長い時間スケールと対象とした学問であるので,直接的に社会の役に立ちにくい側面があると思う.
津波堆積物の特徴が明らかになっても,陸前高田市の人々の命を救うことはできない.
津波の来襲頻度が分かったとして,それを直ちに防災に役立てられるという確証もない.
「サイエンス」を建前にして被災地に足を踏み入れ,結局は知的好奇心を満たすために調査を行っているのではないか.そういう批判を受けるかもしれない.


しかし,調査をしていてひとつ印象に残ったのは,津波で家を失ったという男性が我々に話しかけてくださり,ここでは津波は何メートル位の高さだったのか,それは場所によって違うのか,どのように違うのか,などという質問を受けたことである.
『自分たちの身に何が起こったのか知りたい』という声が被災者の方々の間にもあるのだということを実感した.


地質学に限らず基礎科学にとっての社会貢献とは,『人類の知識のデータベースを拡大し続けること』だと私は思う.
直接的に人々の役に立つかは,まだはっきりとは分からない.しかし,まずその現象を理解しないことには,どのように役立つのかすらわからない.

人類にとっての幸福とは,人類全体がどんどん物知りで賢くなったその先にある.
そういう長〜い時間スケールで物事を見ることができるのが,ジオロジストだと思うわけです.
つまりジオロジストはもっとモテてもいいと思うんです.


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山下 翔大 (やました しょうた)
千葉大学理学研究科 地球科学科 D3
日本学術振興会特別研究員DC2

博士研究では浅海(干潟)における土砂輸送パターンを堆積物の特徴から復元することを試みています.
学部,修士では白亜紀の二枚貝化石の研究もしてました.
ピラミッドの研究はしていません.