2012年12月08日

科学が与えてくれた、私の生きがい (上原 史裕)

「私の研究テーマは、海底から金を掘ることです。」

「いつの日か、海底から掘った金で指輪を作り、『海よりも深い愛を、君に』と言って、好きな人にプレゼントしたいです。」
 こんなことを、本気で、楽しそうに、高らかに語るオッチャン(30)が目の前にいたら、読者の皆様は、どのように思われるでしょうか。私は、そんなオッチャン(30)です。来週、コンパがあるのですが、言って良いものかどうか。

 今は、柏キャンパスで研究していますが、2年前まで講師業をしておりました。塾講師や家庭教師を行って生活しておりました。講師業は楽しかったけど、私自身が満たされた感じはしませんでした。仕事もだんだん減ってきて、何だか、生きる希望がなくなってきつつありました。
 「何のために科学を勉強したのだろう。どうして、一年浪人してまで、京都大学理学部に入ったのだろう。」二年前まで、この気持ちがずっとくすぶっていました。
 そんな時、何気なく行った入試説明会で、一枚のポスターを見ました。海底熱水鉱床に関する研究をしている研究室でした。
 水深1000mより深い海底にある鉱床を探す。金銀が濃集している鉱石を掘る。誰もできないと言うことを、本気でやると言っている。しかも、既に日本近海で発見している。
「何これ、めちゃくちゃ面白い。ここに行かなければ、一生後悔する!絶対行く!」

 このリレーエッセイを書くに当たり、当時の日記を読み直してみましたが、それまで鬱々としていた文が、その日を境に一変しました。
「何が何でも試験に受かって、海底から金を掘るのだ!」

「千載一遇の大チャンス! これを逃せば、二度と行けない。」
 
「この世はでっかい宝島! リアル宝島!」
 その勢いで、当日の試験は、全科目自己ベストの得点で合格しました。
 それから2年。採取した海底堆積物から、目標の鉱物を選別し、顕微鏡で仔細に観察する日々を送っています。

鉱物は、私に問いかけます。
「さあ、私は何でしょう。」

「どのような力がかかっていたでしょう。」

「どこから転がってきたでしょう。」

「こんな私がいるということから、鉱床は、どこに、どれだけあるか、わかるかな?」
 いっぱい問いかけられます。疑問に思うことは、片端から調べる毎日です。そして少しずつわかってくるたびに、「第2問!」「第3問!」と続きます。質の良いクイズ番組に出ているような感覚です。

 今の時点では、夢のまた夢ですが、私が生きている間に、本当に指輪が作れるほどの金がとれるかもしれません。そして、冒頭の一言を言えるかもしれません。それはそれで、素敵なことです。
 でも、本当に大事なのは、その過程です。この過程に乗っているとき、私は、本当に楽しいのです。そして、そういう時は、周りの人も楽しいと思えるのです。同じ人生なら、世間的な「常識とやら」に負けて一人で閉じこもっているよりも、みんなで科学的な新発見を成し遂げて、世間の常識を塗り替えたいのです。そっちのほうが、楽しいのです。そういう生き方をするのに、科学は、うってつけの舞台なのです。

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上原 史裕
東京大学大学院 新領域創成科学研究科 修士2年

専門:海底熱水活動域の堆積学的研究 

島弧ー海溝系、背弧凹地の資源ポテンシャルに関する研究をしています。堆積物を採取し、重鉱物の分布を調べています。

 趣味は落語です。幼稚園から老人会まで、色んな所で高座に上がっておりました。いつの日か、「サイエンス落語」を作り、科学コミュニケーションできないものか、考えています。