2012年01月31日

「わたしの姓名に関するある声明」永縄 友規

※自分が研究者として大学に残ろうと思った動機は大小合わせて10ほど存在するが、折角与えられたこの紙面をよい機会と捉え、そのうち一つを紹介したい。特に実名で掲載されることを最大限に活用した「とあるひとつの動機」について深く掘り下げたいと思う。
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【永縄友規】これは私の名前なのですが、みなさんは正しく読めるでしょうか?

私自身はこの名前を非常に気に入っていますが、残念ながらことあるごとに「長縄」と記載され、「ともき」と呼称され、落ち込みます。不思議なことに【ながなわ】をワープロで変換すると候補一覧に「長縄」しか現れません。また【友】を訓読みし、【規】を音読みするというやりかたには沸々とした感情が湧き出たものです(なお「とものり」とよばれるケースも昔からあります、「ともき」「とものり」とも「友規」に変換できるみたいです)。私自身はそうは思いませんが、やはりこの名前が珍しい部類に入るのは世間的価値観では間違いなさそうです。

話は変わり、私は2011年の春に博士号を取得し博士研究員として今も大学の研究室で日々一喜一憂を繰り返しながら研究を続けています。私の専攻は現時点では「有機合成化学」です。これは簡単に紹介すると、いろいろな試薬や触媒を用いてAという有機化合物をBという目的物へと変換させる学問です。有機合成化学は極めて長い歴史を持つ学問体系であり、現代では極端な話、チカラワザやゴリ押しをもってすれば合成できない有機化合物はそうはないといえるところまで来ていると思います。ところがいま、そうした「作れりゃええんや!」の時代から「高効率的」「高選択的」「環境調和型」などといった合成に対する各種の付加価値がなければ研究として成立しにくい時代へと学術的要請はシフトしてきました。

そのような背景を持つ今日の有機合成化学ですが、長い歴史の中で「AをBに変換するためにはこの反応をよく使うんだよ」というような「常套手段」や「定石」として有名となった反応が少なからず存在します。そういう反応は開発した人の名前をとって、例えば〇△先生が開発したとしたら「〇△反応」という風に呼ばれる傾向があります。これを「人名反応」といいます。例えば、2010年にノーベル化学賞を受賞した鈴木章先生の反応は「鈴木カップリング」という名前で広く知られており、「パラジウムを用いる有機ホウ素化合物と有機ハロゲン化物とのクロスカップリング」などと呼ばなくても「鈴木カップリング」と言えば研究者には通じます。「じゃあ、このステップはsuzukiで行けそうやな」極端な話それで通じます。そこにはすでに人名本来としての意味は薄く、反応の固有名詞としての新しいアイデンティティを確立した人名が存在しているといえます。「Name Reactions」という主要な人名反応をまとめた本が海外で出版されるぐらいに、その存在は有機化学において意義ある位置を占めています。

実は有機合成化学の研究を続けていく中での私の目標のひとつは【Naganawa Reaction】をName Reactionsの本に残すことにあります。そこには生きた証を教科書に永遠に刻みつけるという意味以上の、もっと大切な野心が込められています。50年後の未来、とある有機化学系の大学院生が「じゃあ、ここのステップは長縄でやってみます」と先生に相談したとします。そうしたら先生はこう返すはずです。「いいけど、長縄じゃねえよ【永縄】だぞ?院生にもなって恥ずかしいからちゃんと覚えとけよなあ」。【Naganawa】が読めなくて当然という苦渋の過去、が、読めて当たり前の世界に、これはもはやちょっとしたパラダイムシフトだといえます。私自身が手を施さなくとも、勝手に世界が私の名前を知らないことをよしとしない理想郷へと向かって行ってくれるわけです。

以上のような壮大な手段で私は、自らの苗字を売っていくつもりなのですが、では最後に、下の名前である【友規】の正しい読みはどうやって認知を広めていけばよいのでしょう。冒頭で私は敢えて名前の読み方を述べませんでしたが、正しい読みは「ともき」でも「とものり」でもなく【ゆうき】です。「ユウキ」が「ユウキ化学」をやっているこの事だけでも実に興味深いものがありますが、僕の知る限りでは「ユウキ」というfirst nameの有機化学系大学教授は歴史上にお見えにならないんじゃないかなと思います。阪神の藤川球児投手のように、ある意味ではこの業界に生きることを宿命づけられた名前なのかもしれません。そういう点ではちょっと変わった名前というのは覚えられやすく、少なからず他の人よりも得することがあるんじゃないかと前々から期待しています。

以上で私の声明は終わりですが、それではさて、またみなさんがここではないどこかで私の名前をお見かけ出来る日が来るように、未来の【Naganawa Reaction】を回し続ける日々へと戻ることにいたしましょう。

平成24年1月 Yuki吹きすさぶ六角堂を見下ろしながら

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永縄友規(Yuki Naganawa, Ph.D.)
九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所 Post-Doctoral Research Associate
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