2013年08月22日

なりゆきです (阿児 雄之)

Q. この職業を目指したきっかけは?
A. なりゆきです。


2013年8月2日に中学生2名から職業インタビューを受けました。
このリレーエッセイでは、研究内容の紹介よりも、書き手自身について記して欲しいとの言葉をいただいていたので、インタビューは私自身を振り返る絶好の機会となりました。では、その時の様子を交えながら、つらつらと書き始めてみましょう。

インタビューに来て下さったのは中学2年生のKさんとFさん。
大学教員の方にインタビューしたいとの申込があったのですが、なんと私に…。
えっーと、私は現在、東京工業大学博物館に勤務しております。大学教員といえばそうだし、博物館の学芸員といわれればそうでもあるし、なんとも微妙な立場です。
彼女達の期待に応えられるかどうか、不安を抱きつつお会いしました。


あまり肩肘を張らない雰囲気で話したかったので、東工大博物館・百年記念館1Fの開放的な席にて、まずは、お互いに自己紹介と微笑み返し。
そして、最初の質問。想定してはいたものの、いきなり難しい質問。

Q. この職業を目指したきっかけは?
A. なりゆきです。

ふたりの乾いた笑いが響く。
驚きとこれからのインタビューへの不安が入り交じった様な表情。
さてさて、挽回しなければなりません。
今現在に至った経緯を、少し時間をかけ、お話しましょう。
いわゆる経歴、研究歴には載ってこないおはなしです。


私は実家から徒歩で幼稚園、小学校、中学校に通っていました。
そして、高校は中学校よりも近くにありましたので、インタビューに来て下さった二人と同じ中2の頃も、高校はそこに通うのかなと漠然と思っていました。しかし、そう簡単には行きません。ご存知のとおり、高校入試というものがあり、試験をクリアしなければ入学できないのです。その仕組みを知ったのが、ちょうど中2あたり。進路相談というのを経る頃ですね。ここで、やっと自分はどういう風に生きていきたいか考え始めた様な気がします。

大学で研究者になるなんてこれっぽっちも考えておらず、第一希望は「料理人」。
調理師専門学校に入って、料理に関わる仕事をする姿を想像していました。
しかし、結局は両親などと相談し、一番近く(「あまちゃん」を見終わってから家を出ても間に合う距離といえばわかりやすいでしょうか。)の公立高校へ進学することになります。

高校時代も中学と同じくぽけーっと過ごしていましたが、気がつけば進路を決めないといけない時期がやってきます。
歴史とか好きだったし、考古学とかやってみようということで私立文系コースを選択。
しかし、入学したのは奈良教育大学で、それも理科教育の流れをくんで新設された「古文化財科学専修」というところです。
この文化財科学という分野は、発掘された遺物等を科学的手法を用いて調べていくという学問です。
お察しの通り、私立文系でもないし、考古学者になるわけでもないルートに乗りました。
ですが、結果としては、ここで数多くの遺跡調査に参加させていただくことができ、考古学に関連する研究に従事することができました。

さて、いよいよ大学を卒業し就職へ。
運良く、飲食関係企業の選考にも通って、小さな頃の夢であった職業につくのかと思いきや、大学院へ進学。
折角だから、もう少し勉強してみたらという勧めを受けて奈良教育大学大学院の修士課程に行くことになります。
研究をし始めると修士の2年間なんてあっという間で、延長して研究を続けようと思っていたが諸々の事情があり修了する運びに。
そうすると、研究をまとめることも大事ですが、身の振り方も考えねばなりません。
模索している中で、ひとつの道があることを教えていただきました。
それが、東京工業大学大学院への進学。結果として、東京工業大学大学院情報理工学研究科計算工学専攻の博士課程へ。
「遺跡探査」をテーマとして研究をおこないます。

東京工業大学に入学してみると、大学には先達が発見・開発した研究資料などがごっちゃりとあり、卒業生の中には名の知れた陶芸家がおり、その作品も大学に所蔵されていることを知りました。たまたま、奈良にいたときに学芸員資格をとっていましたので、それら収蔵品を管理されている先生からお声がかかり、お手伝いをすることに。東工大での初仕事は、研究ではなく収蔵品整理でしたね。
そして、途中、様々な研究プロジェクトに参加させていただくなどして、現職についています。


と以上のような話を回答に添えてお話ししました。
そう、まさしくこの職業についたのは「なりゆき」です。
いやぁ、インタビューに来てくれた二人は、目をぱちくりさせながら「なぜ、そうなるんですか?」という表情でしたね。
彼女達は、大学教員や研究者というのは、小さな頃より自分の夢を定めながら、その夢に向かい一直線に走ってきているというイメージを持っていたようです。
それをひとつ目の質問で打ち砕いてしまいました。


ではまた、質問に戻りましょう。

 Q. 今の職業についていなかったら、何をしていましたか?
 A. 料理人または飲食に関わる仕事でしょう。

何度も料理や飲食に関わる分岐点はありましたので、そうなっていた可能性は高いです。
もしかしたら、将来はそちらの職業についているかもしれません。


 Q. どんな努力をしてきましたか?
 A. 努力であるかわかりませんが、大学に入学してからは色んな人と会いに行くようにしました。なりゆきでここまで来ていますが、これまでお会いした方々との繋がりがあったから、現在に至ったのだと思います。

これは本当にそうです。恥ずかしながら、何かを目指し弛まぬ努力をしてきた訳ではありません。しかし、多くの方々と積極的に交流し、その出会いが積み重なっています。特に一人ではできない研究分野ですので、協力して進むことの大切さを強く感じています。


 Q. 楽しいことはなんですか?
 A. 個人的には、調査でいろんな場所(各地の遺跡など)に行くことです。地域が違うと歴史や文化が違うので、衣食住の在り方も違います。それを体感できるのはとても楽しいですね。そして、仕事面・研究面では自分の気持ちや考えが伝わることですね。

この質問は、簡単に答えることもできるし、よくよく考えると難しいものでもありました。教育大に始まって今は大学博物館と場所や専門性は転々としていますが、相手に自分自身の想いを伝えるという点は共通しているように感じます。自分自身が面白いと思ったこと、楽しいと思ったことを手法は様々であるが相手に伝える。そして、伝わり共有できた時の楽しさが根本にあって、研究等に取り組んできたように思います。インタビューを受けての気付きであり、これまで意識していなかったので大きな収穫となりました。

 Q. つらいと思ったことはありますか?
 A. いっぱいありますが、楽しいことの途中にあるつらいことなので、なんとか乗り切れたような気がします。

 Q. こころの支えとなる言葉や本はありますか?
 A. ありません。しかし、身近に尊敬し憧れる大先輩がいらっしゃいます。その方の言葉とかが支えかもしれません。

 Q. 私達中学二年生に向けてメッセージを。どんな大人になって欲しいですか?
 A. 自分自身で、「これが私です」と言える大人になって欲しいと思います。思い描いていた理想とは違うかもしれないけど、それはそれ。今の私はこれ!と胸を張って言ってもらえてると嬉しいな。


もっといろいろと話はしましたが、とりあえず以上。
いやぁ、曝け出しすぎたでしょうか。
研究内容には全くといって良い程触れずに書き散らしてみました。
文章で残ると気恥ずかしい部分もたくさんありますが、のこされたものを取り扱う仕事をしていますので、そうも言ってられませんね。

最後まで読んで下さった皆様、お付き合いくださりありがとうございました。
そして、インタビューに来て下さったKさんとFさん、このリレーエッセイにお誘い頂いた、まこっちゃんに感謝です。ありがとうね。

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阿児雄之(Ako Takayuki)
東京工業大学博物館・特任講師

1976年、大阪府岸和田市に生まれる。
専門は文化財科学、文化財情報学。
日々、東京工業大学博物館にて収蔵品の調査・研究・展示等に携わる。お近くにお越しの際は、ぜひお声かけください。博物館をご案内いたします。